GITC-0001

退会未遂

Artist
退会未遂
Format
Handmade cassette / digital lyrics
Edition
Limited Edition / 50 copies
Tape
NORMAL POSITION / TYPE I
Runtime
Side A 13:46 / Side B 14:33

About this release

Ghost in the Cassette による限定カセット作品 GITC-0001。架空バンド「退会未遂」の音源、曲順、印刷物、管理番号をひとつの記録物として組み立てています。

このページは、Jカードに同梱されなかった歌詞とライナーノーツを静かに保管するための場所です。

Tracklist

Lyrics / Liner Notes

Side A · 1

プロローグ、または蛍光灯のブザー音

(インストゥルメンタル)

Side A · 2

タイムラインがうるさい

おはよう 朝の通知
タイムラインがうるさい
誰かが誰かを叩いてる
ぼくの知らない誰かを
スクロール スクロール
親指の関節が痛い
リツイートの引用の
さらに引用が回ってる

だからなに
だからなに
だからなに

タイムラインがうるさい
ぼくの今日が始まる前に
タイムラインがうるさい
もう疲れた もう疲れた

誰かが正論を言ってる
誰かがそれを叩いてる
誰かがあいだに入って
誰かがそれも叩いてる

ぼくは何にも言ってない
言ってないのに疲れてる
バナナを食べる時間もない
シャワーを浴びる気力もない

だからなに
だからなに
だからなに

タイムラインがうるさい
ぼくの今日が始まる前に
タイムラインがうるさい
もう疲れた もう疲れた

タイムラインがうるさい
タイムラインがうるさい
だから何 だから何
もう いいよ もう いいよ

Side A · 3

サブカル通り

ヴィレヴァンの前を
青い傘さして歩いてく
横顔だけで分かった
たぶん 二年ぶりくらい

ピーコックの袋をさげて
B&Bの角を曲がって
ロフトの下を通り過ぎて
あの頃と同じ歩幅で

ぼくはセブンのレジで
小銭を数えてた
数えてたまま 動けなかった

サブカル通り 雨の午後
すれ違っても気づかない
ぼくらはもう違う街で
違う傘をさして歩いてる

あの店もあの店も
はんぶんくらいなくなってた
タワレコの跡地に立って
何の店だったか思い出せない

シェルターの看板だけ
あの頃のままで残ってた
ぼくらが初めて
何かを観た夜のまま

ぼくはサブウェイで
野菜を多めにしてもらった
それくらいしか 変わってない

サブカル通り 雨の午後
すれ違っても気づかない
ぼくらはもう違う街で
違う傘をさして歩いてる

名前を呼ばなくてよかった
呼んでたら きっと
ぼくのほうが 泣いてた

サブカル通り 雨の午後
すれ違っても気づけない
ぼくらはもう違う街で
違う傘をさして歩いてる
歩いてる 歩いてる

Side A · 4

親愛なる無言くん

グループLINE 9人いて
7人が既読になってる
ぼくだけが未読のまま
わざと 未読のまま

通知の数字が増えていく
いち さん なな じゅうに
誰かが誰かに笑ってる
ぼくはまだ 開いていない

親愛なる無言くん
それは ぼくのことです

親愛なる無言くん
返事をもとめるあなたへ
返事をしない自由を
ぼくは握りしめてる

飲み会の連絡が来て
スタンプが並んでいく
行ける 行けない 検討中
ぼくは何も押さない

明日になれば
誰かが代わりに決めてくれる
ぼくがいなくても
たぶん 何も変わらない

親愛なる無言くん
それは ぼくのことです
親愛なる未読くん
それは ぼくのことです

親愛なる無言くん
返事をもとめるあなたへ
返事をしない自由を
ぼくは握りしめてる

本当は
返事の仕方を
忘れただけかもしれない
忘れたふりを
してるだけかもしれない

親愛なる無言くん
返事をもとめるあなたへ
返事をしない自由を
ぼくは握りしめてる
スマホを握りしめてる

Side A · 5

退会未遂

セブンのイートインの蛍光灯
肩のあたりで一回だけ点滅する
最後にちゃんと話したのは
たぶん木曜のコンビニ店員
温めますかって聞かれて
お願いしますって ちゃんと言えた

スマホを握り直す
設定 アカウント データと履歴
削除 削除 削除
パスワードを もう一度
本当に削除しますか
うん たぶん いや ちょっと待って

指が止まる
止まったまま 何分経った
何分経った 何分経った

退会未遂 3時14分
ぼくのこと 誰も止めないけど
誰も消させてくれないんだ
ねえ 誰か ねえ 誰か

ブロックした人の名前が
夢の中で挨拶してくる
こっちは元気でやってるよ
そっちは どうしてんの
返事できないまま目が覚めて
枕がちょっと湿ってる

通知 通知 通知の海で
浮き輪みたいに既読つけて
親のLINEに OKだけ
それすらできない夜がある
おやすみのスタンプを押して
そのまま朝まで起きている

指が動く
動いたって 何も変わんない
何も変わんない 何も変わんない

退会未遂 3時14分
ぼくのこと 誰も止めないけど
誰も消させてくれないんだ
ねえ 誰か ねえ 誰か

消えたいんじゃない
ただ 知らない街で
誰にも顔を覚えられないまま
コンビニのコーヒーを
うまく開けたいだけなんだ
たぶん それだけなんだ

退会未遂 3時14分
ぼくのこと 誰も止めないし
誰も消させてくれないなら
明日も たぶん 生きてるよ
ねえ 誰か ねえ 誰か
ねえ 誰か 聞いてる?

Side A · 6

インタールード_深夜のセブン

(インストゥルメンタル)

Side B · 1

ハッピーセット供養

燃えるゴミの日に
押し入れを開けてみた
段ボールの一番下に
プラスチックの恐竜

ハッピーセットの
おまけでもらった
名前までつけてた
ゴロザウルスって呼んでた

ありがとう
ありがとう
今までありがとう

ハッピーセット供養
ぼくはもう30歳
プラスチックの恐竜は
今日 燃えるゴミになる
思い出と一緒に
黒い煙になる

ラララ ラララ
ラララ ラララ

ピカチュウのキーホルダー
ベイブレードのコマ
たまごっちの本体
電池はもう入ってない

部屋の真ん中に並べて
一個ずつ 写真を撮った
クラウドに上げて
それから SNSに上げて
最後に 袋に入れた

ありがとう
ありがとう
今までありがとう

ハッピーセット供養
ぼくはもう30歳
プラスチックの恐竜は
今日 燃えるゴミになる
思い出と一緒に
黒い煙になる

ラララ ラララ
ラララ ラララ

子供のぼくが
怒るかもしれないけど
大人になるってのは
たぶん こういうことだ

ハッピーセット供養
ぼくはもう30歳
プラスチックの思い出は
今日 燃えるゴミになる
子どもの僕がいる場所に行く
ありがとう
さようなら

ラララ ラララ
ラララ ラララ

Side B · 2

既読2週間

既読 既読 既読
既読をつけて
十四日が経った
十四日経っても
何にも変わらなかった

あなたから来たメッセージ
おひさしぶり 元気?
それだけの一行に
ぼくは十四日かけて
返事を書けないでいる

元気だよって
書こうとして
やめて

いきてるよって
書こうとして
やめた

あなたは今頃
ぼくのことを
たぶん思い出してもいない
ぼくは十四日間
あなたのことだけ考えてる

既読 既読 既読
既読をつけて
今日も眠る
明日もたぶん
眠る

Side B · 3

ブロックした人の夢

夢の中で
あなたが手を振っていた
こっちが見えているのか
わからないくらい遠くで

ぼくは手を振り返した
そう振り返したけれど
あなたには
たぶん見えてなかった

夢の中の街は
昔の街に似ていた
あなたとよく行った
ファミレスもあった

メニューを開いたら
全部 真っ白だった
何も注文できなくて
何も言えなくなって
ぼくは席を立った

目が覚めて
スマホを握って
何度も 何度も
スクロールした

夢の中でしか
会えないあなたへ
ぼくが消したのか
あなたが消えたのか
もう わからない

朝のニュースは
何も言わない
あなたの名前なんて
誰も呼ばない

夢の中だけが
あなたを覚えている
ぼくの記憶よりも
鮮明に

目を瞑って
眠りにつくたび
何度でも 何度でも
あの街に戻る

夢の中でしか
会えないあなたへ
ぼくが消したのか
あなたが消えたのか
もう わからない

本当は
覚えてる
あった日の
天気のことまで

夢の中でしか
会えないあなたへ
ぼくが消したのか
あなたが消えたのか
わからないまま
眠るよ あの街へ
今夜も

Side B · 4

うすい膜

窓の外と内側に
うすい膜がはってる
触れそうで 触れない
ガラスより やわらかい

朝の光が
膜の向こうで揺れてる
ぼくは今日も
膜の内側にいる

誰かに見られてる気がする
誰にも見られてない気もする
どっちでもいい気がする

うすい膜の中で
ぼくらは息をしている
うすい膜の外で
誰かが歩いている
それだけ
それだけのこと

電車の窓の向こうに
知らない街が流れていく
誰かの暮らしが
3秒で過ぎていく

その人の今日も
膜の中にあるんだろう
ぼくと同じ厚さの
膜の中にあるんだろう

誰かに触れたい気がする
誰にも触れたくない気もする
どっちでもいい気がする

うすい膜の中で
ぼくらは息をしている
うすい膜の外で
誰かが歩いている
それだけ
それだけのこと

膜は破れない
破らなくてもいい
膜の中で
息が続けば
それでいい

うすい膜の中で
ぼくらは息をしている
うすい膜の外で
誰かが歩いている
それだけ
それだけで
いいんだ

Side B · 5

三時十四分の海

窓の外には
コンクリートの建物と
電線と
小さく切り取られた空

それを ぼくは
海と呼んでみる
誰にも言わずに
ずっと 海と呼んでいる

本物の海を見たのは
たぶん 三回くらい
覚えているのは
波の音じゃなくて
帰りの電車の中で
眠っていた誰かの
かすかな寝息

ぼくの中の海は
たぶん それだ

眠れない夜に
ぼくは舟を出す
誰も見ていない
窓辺の海に

夜を渡る 夜を渡る
オールも風もないけれど
ぼくにしか見えない波が
ぼくを 朝まで運んでいく
運んでいく

忘れたい人のことは
忘れられないままで
忘れていい人のことは
あっさり忘れていく
そういうふうにできてる

ぼくの脳みそも
ぼくの心臓も
ぼくの言うことを
聞いてくれない

それでも 舟は
進んでいく
誰も漕いでいないのに
進んでいく

夜を渡る 夜を渡る
オールも風もないけれど
ぼくにしか見えない波が
ぼくを 朝まで運んでいく
運んでいく

ほんとうは
海なんてどこにもない
窓の外は
ただのコンクリートで
電線で
小さく切り取られた空で

それでも ぼくは
それを海と呼ぶ
そう呼ばないと
夜が 渡れないから

夜を渡る 夜を渡る
オールも風もないけれど
ぼくにしか見えない波が
ぼくを 朝まで運んでいく

夜を渡る 夜を渡る
誰にも届かない海を
ぼくにしか聞こえない波が
ぼくを 朝まで運んでいく

運んでいく
運んでいく
運んでいく
朝まで

退会未遂は、2023年春に東京都立川市で結成された架空の4人組。90年代USインディーと日本のオルタナを通過したローファイなベッドルームポップを、夜中3時のスマホの明かりで書かれた歌詞で記録します。

本作の音源、曲順、印刷物、管理番号、ノイズまでを一つのアーカイブ対象として扱っています。